1 研究主題
地域の特性を生かした食生活の学習を通して
2 主題設定の理由
(1)社会的背景から
現代の食生活は、食の多様化が進み、物質的には便利で豊かな「飽食の時代」とも呼ばれている。しかし近年、食生活を取り巻く環境の変化に伴い、子どもの食生活の乱れや健康に関して懸念されることは数多くある。食生活の学習は、心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心と身体を培う豊かな人間性を育んでいく基礎となるものである。
地域の食材に目を向け、自然の恵みによって私たちは生きていることを理解するとともに、地域を愛する心の育成や食文化の継承を図ることも大切である。地域の特性に目を向けさせながら、学習活動を通して自らの食生活を改善する能力を身につけさせ、家庭での実践につなげたいと考えた。
(2)地域の実態から
本学区は、房総半島のほぼ中央に位置し、山林・原野が町の総面積のほぼ3分の1を占め、温暖な気候と豊かな土壌に恵まれ、多くの農産物が生産されている。町にはたくさんのはす田が見られ、県内でも有数のれんこん生産地である。また、しいたけや自然薯も多くとれる。その他にべに花や枝豆も有名で、べに花の加工食品も作られている。山間部の水田は粘土質であるため、おいしいお米が生産されている。
古くは城下町や宿場町として栄えた歴史をもち、文化的・歴史的遺産が数多く残された文化の香り高い町である。地域の行事もたくさんあり、子どもたちも積極的に参加している。地域の方々の学校への関心も高く、生徒たちを地域全体で見守っている様子が伺われる。このような豊かな自然と農作物に恵まれた環境を家庭科の授業で生かしていきたい。
(3)生徒の実態から
本校は、比較的規模の小さな学校である。生徒は穏やかで、落ち着いて学習に取り組むことができる。祖父母と同居の家庭も多く、農業を営んでいる家庭では家庭科の授業の調理実習の際に自分の家でとれた野菜を持ってくることもしばしばあり、野菜を身近に感じることができる生徒が多い。授業には前向きに取り組んでいるが、穏やかな環境のせいか自分から物事に積極的に取り組もう、新しいことを見つけて始めてみよう、という意識が低い。授業を通して自ら考え、行動する力を伸ばせるようにしたい。
自然にあふれ、農作物に恵まれている長南町に住んでいながらも、地域の食材についてよく知らない、長南町の食材についてあまり関心を持っていないこともみうけられた。そこで、長南町でとれる農作物はどんなものがあるかというアンケートをとり、生徒の意見の多かった「れんこん」を使った調理実習を取り入れることにした。れんこんを使った調理は何ですかという問いに対して圧倒的に意見の多かった長南丼を調理実習で行うことにした。長南丼は小学校の時に給食の献立として出ていて、長南町の特産品である「れんこん」や「枝豆」を使った料理である。長南丼の調理実習を通して、地域の食材に目を向け、それらを生かした料理のよさを知り、そこから自分たちが生まれ育った地域に関心を持たせたいと考えた。
3 ねらい
地域の特産物を生かした調理を行い、地域への興味関心を高め、学んだことを自分の生活に生かしていこうとする態度を育てるための効果的な方法を探る。
4 仮説
地域の食材について調べ、特産物を生かした調理実習を行うことで、地域の食材のよさに気づき、体験したことを家庭で取り入れようとする実践的な態度が身につくであろう。
5 実践
地域の食材を使った調理をしよう。
目標 ・地域の食材の特徴を知る。
・衛生、安全に注意して、正しく調理器具を使い、調理することができる。
学習活動と内容 |
教師の支援 |
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1.
学習問題を確認する。 長南丼を作ろう 2.
長南の特産物であるれんこんを使った調理について、栄養士の先生より話を聞く。 ・れんこんの調理上の性質 ・長南丼ができたいきさつ など 3.
作り方を確認し、調理実習を行う。 @
分量を確認し、計量スプーン、計量カップを正しく使い、計量する。 A
野菜を切る。 B
材料を混ぜる。 C
油に注意し、揚げ焼きする。 D
たれを作る。 E
どんぶりにご飯をのせ、具、れんこんをのせ、たれをかける。
4.試食をする。 5.後片づけをする。 栄養士の先生へ御礼 の挨拶をする。 6.本時のまとめをする。 栄養士さんに聞いたことをプリントに記入する。 |
○本時の学習問題を提示する。 ○本時の手助けをしてくれる、栄養士の先生の紹介をする。 ○調理器具を安全に扱っているか確認する。 ○れんこんは輪切り、みじん切り、すりおろすなど切り方が違うので、間違わないよう詳しく説明する。 ○多めの油で焼くので、火の管理に十分注意するよう、助言する。
○班員と協力しな がら、片付ける ことができるよ うにする。 ○栄養士の先生からの話をプリントに まとめて、記入するよう助言する。 |
長南丼を作った感想
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初めて長南丼を作りました。食べるのも2回目でとても懐かしい味がしておいしかったです。材料を特産品にしたり、切り方とかも工夫されていて、子どもから年配までみんなが食べやすいようになっていてすごいと思いました。
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私はこういう郷土料理の作り方を知らなかったので、今回学べてよかったなと思いました。
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長南丼は「れんこん」のおいしさを存分に引き立てていると思いました。また家で作ってみます。
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こんなにおいしくできるとは思いませんでした。れんこんのしゃきしゃきした歯ごたえがとても良く家で作ってみようと思いました。枝豆が苦手なので最初は「えーっ」と思いましたが、作って食べるととてもおいしかったです。
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長南町の郷土料理としてこの先長南町を離れることになっても、ずっと忘れないおいしい味!!また今度、家で作ってみたいと思う。
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れんこんを3パターンで切るとサクサクしてもちもちしているのを食べて郷土料理に興味がわいて、色々なものを作ってみたくなりました。楽しかったです。
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小学校の頃に給食で長南丼が出るのがとても楽しみでした。その長南丼を作ることができてうれしかったです。家で家族に作ってあげようと思いました。
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初めて作ったけれど、予想以上においしかった。古代米のぷちっとした食感と、れんこんのシャキシャキした食感が楽しめる一品だった。おいしく楽しく作れてよかった!
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自分たちで作った長南丼を食べて、長南丼をはじめて食べた頃の小学校時代を思い出したとともに、また食べたいという思いがかないました。材料があれば一人でも作れると思うので、また機会があれば作ってみたいと思います。
実践を終えて
長南丼の考案者である栄養士さんが給食所にいらした4年前まで、給食の献立に長南丼が出ていた。そのため小学校時代に何度か食べたことがあり、そのおいしさをよく覚えている生徒も多かった。長南町の食べ物→はす→長南丼と考えている生徒も多い。町の特産品を使った調理というと、圧倒的に長南丼を希望する生徒が多かったため、今回、長南丼の実習をすることになり、生徒たちはとても楽しみにしながら行うことができた。れんこんのおいしさを改めて感じることができ、自分のふるさとに愛着を持つことにもつながった。
栄養士の先生より、長南丼ができたいきさつや作り方のポイントを聞き、さらに長南丼に興味を持つ生徒も多かった。
6.成果と課題
地域の食材を使った調理実習では、「長南丼」の考案者である栄養士さんに話をいただくことで、より興味深く地域食材への関心を持つことができた。実習中も説得力のあるアドバイスと専門的な技術の指導を受けられ、生徒の意欲もより高めることができた。
家庭科の時数が少なくなり、教えるべき範囲が増える中で、地域の食材を生かした調理を日常食の調理とからめて取り入れられるように授業内容を工夫していく必要がある。