題材例(応援団支部

1 研究主題

        自ら課題を解決していく制御学習のあり方

2 研究主題について

(1) 新学習指導要領から

平成14年度から完全実施された新学習指導要領では、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成を基本とし、学習内容の厳選と基礎・基本の徹底を図ること、一人一人の個性を生かすための教育の推進などが示されている。

技術・家庭科では、社会の変化に主体的に対応できる人間の育成を目指して、生徒自身が生活を自立して営めるようにするとともに、自分なりの工夫を生かして生活を営むことや学習した事がらを進んで生活の場に活用する能力や態度を育成することを主なねらいとしている。すなわち、あらゆる生活の場面において、様々な事がらを「自分自身の力で適切に判断し、行動することのできる力」を育てることが大切であると考えられる。

(2) 社会的背景と今日的な課題から

技術・家庭科は、生活そのものを学習の対象とする教科である。その生活を通して生徒たちが自分自身で様々な事がらや生活課題に対し、自分で判断し実践しながら解決し、生き抜く力をつけることが大切である。

今日の様々な生活の中から、自分でできることを見つけ、そしてやってみること。自分が何気なく生活していることのほとんどが、身近な家族や周囲の大人がやってくれている。「自分でやると非常に大変だ。何気なく暮らしているけれどみんなにささえられている。」ことなどに気づき、他人を思いやる気持ち、自分を律する心などを通して主体的に生活していける基盤をつくること。すなわち「生きる力の育成」が課題であると考える。

(3) 生徒の実態から

生徒にとって「学習、学び」は、自分や自分の生活とは結びつかない知識を覚えるものだという学習観を持っていがちである。

「学び」とは、生活と直結し、生活の背後にある科学(自然科学、社会科学など)を学んで自分たちの生活を豊かにしていくにはどうしたらよいのかを考える力をつけるためにあるといってよい。

したがって、生徒自身が頭と身体を総動員してモノやヒトとかかわり合いながら学ぶこと、自分で必要と感じた問題に対して、自分で計画し解決していく学習を形成していくことが求められる。

「自分で計画し作り上げていく学習」は、学ぶことの達成感・成就感を味わうこと、すなわち「学ぶことの喜び」によって学び続ける力が育成されることとなっていくことと思われる。

「学び続ける力」が育成されることは、「学び、学習」が将来にわたって続けられることである。すなわち、「学び続ける力」とは、「生徒自身が、生活している場(家庭生活、社会生活、学校生活など様々な生活)から課題をみつけだし、解決していく学習の繰り返しであると考える。したがって、主題にそった学習を推進するためには、「問題解決能力の育成」が必要である。

(4) 問題解決能力の育成について

長生教育研究会技術・家庭科研究部では、〈問題解決能力の育成について〉次のようにとらえた。

問題解決能力とは、生活を営む上で生じる課題(生活課題)に対して自分なりの判断をして課題を解決することができる能力といえる。


課題を解決するまでには、次のような(a)〜(h)の過程を踏むことによって、身につけることとなる。


〈問題解決能力を育成するためには〉


(a) 無意識に関わっている生活について課題を見つけだし、何が問題なのかを明らかにすること--------- 課題の発見


(b) 課題や問題に対して様々な角度から考え、必要な情報を収集すること----情報収集


(c) 解決方法について比較検討すること----比較検討

(d) どの方法が適当かの意志決定をすること----意志決定

(e) 意志決定にしたがって、計画を立てることができること----計画

(f) 計画にしたがって、実践・実行することができること----実行

(g) 結果について、反省・評価し、責任を持つこと--- 反省・評価

(h) 活用、応用、新たな課題を発見すること----- (a)に戻る

(a)〜(h)の学習過程を図にすると下記のようになる。

課題の発見→情報の収集→比較検討→意志決定→計画→実行(実践)→反省・評価 →活用・応用・新たな課題の発見→新たな課題の発見へ

3 研究の実践

(1) 指導計画の工夫と検討

新学習指導要領の主旨は、大きくとらえると「生きる力の育成」と考える。

技術・家庭科での、「生きる力の育成」を実践するための方策の基礎は、「いつ、どこで、どんな題材を使って、どのような学習方法で実践するのか」が大切であると思われる。

そこで、中学校生活3年間を見通した指導計画、及び問題解決能力の育成を図るためにも、生徒自身が自ら進んで学習できる場を位置づけた指導計画が望まれる。

           平成14年度入学生徒の3年間の計画

前期(4月〜10月) 後期(10月〜3月)
平成14年度1年(70h) B情報とコンピュータ(35h) Web レポート メール プレゼンテーション
技術科・家庭科とも毎週1時間実施
A生活の自立と衣食住+B家族と家庭生活(35h)
平成15年度2年(70h) A生活の自立と衣食住+B家族と家庭生活(35h) A技術とものつ゜くり(35h)
A技術とものつ゜くり(35h) A生活の自立と衣食住+B家族と家庭生活(35h)
選択技術 B情報とコンピュータ(35h) 内容(6)プログラムと計測・制御
平成16年度3年(35h) B情報とコンピュータ(18h)(5) A生活の自立と衣食住+B家族と家庭生活(17h)
A生活の自立と衣食住+B家族と家庭生活(18h) B情報とコンピュータ(17h)(5)
選択技術 A技術とものつ゜くり(35h)

 ※ 1年生は技術分野(B情報とコンピュータ)及び家庭分野を通期で行う。

「B情報とコンピュータ」を全クラスに同時に指導したいため通期で行う。

家庭分野で実習をする場合は2時間続きの隔週となる。

※2年生は技術分野(A技術と物づくり)及び家庭分野を前後期で行う。


「A技術とものづくり」を指導する上で2時間続きの方が都合がよい。

家庭分野で実習をする場合も多いので2時間続きの前後期制としている。

※ 3年生は技術分野と家庭分野を前後期で行う。

昨年度は週1時間の隔週で指導していたが、1回つぶれると1月近く間が開いてしまい、前時の復習に多くの時間を要したため変更した。

※ 家庭分野はABを混在させて指導する。

本研究は2学年選択技術における制御学習について研究を進めていく。内容的には「B情報とコンピュータ」の内容「(6)プログラムと計測・制御」にあたる。

3年生で「B情報とコンピュータ」の内容「(5)マルチメディア」について指導するので重複を避けたいと考え、プログラムの指導をすることにした。

プログラムの指導に当たっては、指導要領によって「命令語を覚える」ことよりも「手順を考える」ことに重点を置くとなっているので、命令自体は簡易な言語がふさわしいと考える。

また、指導要領によって「インターフェースの仕組み等に深入りしない」となっているので、インターフェイスとその制御部分は既成のものが望ましい。

そういった観点から言語を探した結果、創育から発売されている「マイクロワールド」が、インターフェイスが既製品であり、ロボットも簡易なキットとなっているのでこれを使いたいと考えていた。

しかし、言語自体がサイトライセンスで40台分45万円してしまい、予算的な問題で導入することができなかった。けれどもWeb上でモニター募集を知り、応募したところ、モニターとして採用されたので導入に踏み切った。

初めはプログラミングだけを指導していたが、2軸制御のロボットを購入し、制御の学習を加えた。制御だけを指導してもよいが、導入としてアニメーションを作成し、「手順を考える」考え方が身に付いた時点で、制御の学習に入ることにした。

(2) 学習過程の工夫と検討

問題解決能力を育成するために、次のような学習過程で実践を試みた。

(a) 課題の発見

生活を営む上で生じる問題(生活課題)や、自らの学習の中で生じる問題などを見つけ出すこと。

個々の生徒が見つけ出す課題は、さまざまであるが、学習の導入部分での参考作品などの資料や掲示物などによる情報の提供、教師の支援などをできるだけ多く取り入れた。

(b) 情報の収集

課題や問題に対して様々な角度から考え、必要な情報を収集すること。

インターネットなどの情報や、卒業生の製作例などの資料集めを積極的に行った。自らの学習を設定するために、生徒自身が求める情報の場を広げていった。


(c) 解決方法についての比較検討

収集した情報がその課題や問題に対して有効であるのか。作品製作にあたっては、細部にわたって調べ、構想図などに表現するために検討すること。

情報の交換・話し合い活動の活性化など、一人一人の生徒の情報の取捨選択が活発に行 えるように教師の支援・援助を多く取り入れるなどした。

(d) 意志決定

どの方法が適当かの意志決定をする。

各自の問題や課題を解決するには、インターネットなどの情報網など様々な情報を通しての資料集めを積極的に行った。それらの中から、自分が本当に必要な情報や資料を使って、どの方法で実践・実習することがよいのかを決定し、計画を立て実行(実践) する。そのためには、話し合い活動・友人の励まし・教師の支援・援助も大きな支えとなった。

(e) 計画

意志決定にしたがって、計画を立てる。

一人一人の計画を立てること、グループの計画を立てることなどがある。

規定時間の中で実践できるのか、学習方法・学習内容ともに考慮した計画を立てる。

(f) 実践・実行

一人一人の計画にしたがったり、グループの計画にしたがって実践・実行する。

(g) 反省・評価

実践・実行した結果について、自己評価と相互評価を行う。

計画を立て実行(実践)したことが目的に合致していただろうか、課題解決になっただろうか。

自らに問うとともに相互に評価し合うこと。

学習の方法、情報収集の方法など学習の取り組み方についての自己評価を行うと同時に、相互評価を行うこと。及び、各自の課題解決に結びついたかの学習内容についての反省・評価も合わせて行うこととした。

(h) 活用・応用・新たな課題の発見

実行(実践)したことが、生活の中のどんな場面で・どんな時に・どのように生かすことができるか。また、どんな場面で応用できるだろうか。

さらに実行(実践)しているときや、その他の場面で新たに疑問に思ったり、不思議に思ったりすること。すなわち新たな課題や問題が発見でできるのではないだろうか。すなわち (a)の課題の発見に戻ることとなる。

(3) 資料等の工夫


問題解決能力を育てる手立ての一つとして、豊富な資料が必要であると考えた。

 
課題や問題を発見する場面では、生徒自身が気づき問題意識を持つことが大切だが、一人では、発見できない時やとまどっているときは教師の支援・援助や友人の支えなどが必要になってくる。


また、情報の収集段階では、どの場面で・どんな情報を得ることができるかが最も大きな役割を持っている。

本校では、各普通教室に2台ずつ、特別教室(理科室・視聴覚室・保健室・多目的室・図書室など)にも各々1〜6台のコンピュータが設置されており、好きなときに必要な情報がインターネットを通じて取り出すことができるようになっている。


さらに、技術・家庭科の学習で得た様々な資料や情報収集したことは、総合学習の時間の中でも生かすことができる。

逆に総合学習の時間で学んだことや資料などの情報収集したものを技術・家庭科の学習時間で活用することができるように考慮した。


収集した資料や情報は、生徒たちのアイデアを生かし相互評価へとつながるように掲示物にしたり、サーバーに保管することによって自己評価や、相互評価の資料となった。

(4) 授業実践


本題材の主たる内容はアニメーション作成と、ロボット制御の学習である。これまで生徒は、パワーポイントでプレゼンテーションの学習をしている。その中でアニメーション効果について学んでいるが、自分でアニメーションを作成したことはない。ここでは、自分で考えたアニメーションを作成し、身につけたアルゴリズムの考え方によってロボットを制御するという課題について解決していくものである。


@ アニメーション作成


(a) 課題の発見
立案したイメージを確認する。(アニメーション画面)


作成する内容はなにか。(文字・画像・音声)

学習を進めるために、どのような技法を活用したらよいだろうか。

(b) 情報の収集

選択した技法を活用するにはどのようにすればよいか。

提示された解決方法やソフトウェアのヘルプを見て、様々な情報を集める。


(c) 解決方法の比較検討

提示された解決方法やソフトウェアのヘルプから利用する解決方法を比較検討する。


(d) 意志決定

 解決方法を比較検討した結果から有効な手立てを選択し、課題解決の方法を決定する。

(e) 計画

部品を作成する順序を決める。

利用する技能を決定する。

(f) 実践・実行

画像入力と装飾

キャラクタデータの制作と貼りつけ

アニメーションの設定

音楽データの制作

(g) 反省・評価

他の生徒の作品を閲覧する。

同じような技法を活用して有効な表現をした友人の発表を参考にする。

また、異なる技法で有効な表現をした友人の発表を参考にする。

自分の課題を解決し、さらによりよい作品になるように検討する。

自分の課題を解決する方策を見つけられたか、反省・評価する。

新たな課題の発見へとつながるように反省・評価する。

A ロボット制御

(a)課題の発見

立案したロボット走行コースのイメージを確認する。

作成する内容はなにか。(ロボットの動き)

学習を進めるために、どのような技法を活用したらよいだろうか。ロボットを指示通りに動かすために必要なデータは何か。

(b)情報の収集

選択した技法の活用はどのようにすればよいか。

提示された解決方法やソフトウェアのヘルプを見て、様々な情報を集める。

計測すべきデータを収集する。

(c)解決方法の比較検討

提示された解決方法やソフトウェアのヘルプから利用する解決方法を比較検討する。

(d)意志決定

解決方法を比較検討した結果から、有効な手立てを選択し、課題解決の方法を決定する。

(e)計画

分担を決める。(迷路作成・データ収集・入力)

利用する技能を決定する。

(f)実践・実行

迷路作成(生徒用机の天板の廃材を利用)

データ収集(命令を実行し計測)

走行データ入力(プログラミング)

試走→改良(迷路変更・走行データ変更)

(g)反省・評価

他のグループの走行を見学する。

同じような技法を活用して有効な走行をしたグループのプログラムを参考にする。

また、異なる技法で有効な表現をした走行をしたグループのプログラムを参考にする。

自分のグループの迷路をさらに短時間で脱出したり、より合理的な走行ができるように検討する。

他のグループの迷路を脱出したり、あらかじめ与えられた大きな迷路を脱出できるように検討する。

4 研究の成果


(1) 年間指導計画

@ 1学年で「B情報とコンピュータ」を指導済みであるので2学年の選択で発展的な内容の指導がスムーズにできた。

A アニメーションの作成をさせてから同じソフトを利用してロボット制御を行ったので 生徒もすんなりとプログラミングに取り組めた。


(2) 学習過程の工夫と検討

@ 課題について調査しレポートにまとめることにより、学習意欲を高めることができた。

A アニメーションの作成では、各自で課題を設定するので能力に応じた学習ができた。

ロボット制御の学習では協力し合って課題に取り組み、分担し、共通の課題を解決することができた。

(3) 資料等の工夫

@ 掲示物や卒業生の作品例から、参考になる点を取捨選択して活用できた。

A 相互評価を実施し集計することにより、他の生徒からの評価がわかり、自分の作品の改善に生かすことができた。

全体的には資料の生徒の反省やレポートからわかるように学習意欲も高まり、問題解決能力が育成されつつあると考える。

5 今後の課題

(1) 授業面

@ 問題解決的な能力がどの程度伸張しているのか、生徒自身が測定できる具体的な評価の工夫がさらに望まれる。

A 生徒一人一人に応じた柔軟な学習をすすめることによって、一人一人の生徒の課題は異なってくる。生徒の、インターネットなどによる情報の活用・資料収集の力は、かなり高まってきているが、教師の支援・援助のための学習資料などは、まだまだ不十分に思われる。

B アニメーション作成の学習では各自が問題解決的な活動をすることができる。しかし、ロボット制御の学習ではロボットの台数制限(10台)によりグループ学習とならざるを得ない。このとき他の班員に頼ってしまって、問題解決能力の育成が十分とはいえない生徒もいる。

C 同様にアニメーション作成では個人の能力に応じて各自が課題を設定し課題解決できるが、ロボット制御ではグループのメンバー構成によっては、各個人にとって容易すぎる課題や難度の高い課題となってしまうことがある。

D できれば全員に指導したいが、数学的な考え方・技能が必要であり、ロボットの台数により人数も制限される。内容的には「B情報とコンピュータ」の(6)にあたり、(1)-(4) を履修済みでないと学習が困難である。また、指導時間の問題で3学年では十分な指導 ができないので、現状では選択教科として扱っている。

E 生徒に成就感を味わわせるためにアニメーション作成に時間をかけると、ロボット制御の指導時間が不足してしまい、発展課題まで到達する生徒が少なくなってしまう。

(2) 年間計画面

@ 1学年で「B情報とコンピュータ」を指導済みであるので2学年の選択で指導できるが、家庭分野との兼ね合いで1学年で「A技術とものづくり」を指導する場合、3学年の選択で指導せざるを得ない。指導時数の関係で複数のコマで選択技術を指導する場合 選択肢が狭められてしまう。

A 研究内容と直接関係はないが、1年の選択で技術分野を指導する場合、どちらの領域を指導するにしろ、既習事項がないので発展的課題を扱いづらい。

(3) 設備面

@ 現任校では、ロボットを10台購入し活用させていただいているが、異動した場合には予算化から購入を考えると2年間は指導ができない。また、後任者が指導しないということになれば、備品は無駄になってしまう。

A 同様に現在利用しているソフトはモニター品なので費用はかからなかったが、本来は購入しなければならない。40台分購入するとサイトライセンスでも45万円かかってしまい、教育予算削減の現状では購入は難しい。

6 資料

(1) 迷路例

発展課題用大迷路

(2) 迷路作成用グルーボンドガン

(3) 命令送信用赤外線インターフェイス

インターフェイス↓


送信するとき↓

送信用LED↓

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