第4分科会 情報とコンピュータU
Webページの制作学習を通して,確かな知識と技術を
身につけ,問題解決能力を育てる学習指導のあり方
 
千葉県教育研究会技術・家庭科教育部会山武支部
                        大網白里町立増穂中学校  教諭  竹澤 英樹

1 はじめに
 高度情報通信社会にたくましく生きる生徒の育成をめざし,学校教育の中で情報活用能力の育成を図ることが求められている。これを受け,中学校技術・家庭科の技術分野に「情報とコンピュータ」の内容が設定され,全ての生徒が履修すべき内容として,情報モラルとコンピュータの操作に関する基礎的・基本的な知識と技術に関する学習が盛り込まれている(以下「情報とコンピュータT」)。さらに,選択的に履修する内容として,マルチメディアの活用に関する学習が位置づけられている(以下「情報とコンピュータU」)。
 しかし,情報とコンピュータUを取り上げている各校では「最初は喜んで学習に取り組んでいた生徒の意欲が持続しない」,「同じような作業の繰り返しで学習に深まりが感じられない」,「指導する上での適切なテキストやワークなどの資料が不足している」,「評価規準が曖昧だ」などの課題も指摘されている。
 そこで本研究では,Webページの制作を主題材として取り上げ,その題材の特性を生かした学習指導を通して,確かな知識と技術の習得及び問題解決能力の向上を図ることを目的とした研究をすすめることとした。

2 研究のねらい
(1) めざす生徒像
 本研究では,マルチメディアに関する学習を通して「生きる力」を身につけた生徒を「めざす生徒像」とし,以下のようにまとめた。

めざす生徒像
@マルチメディアの特徴や利用方法に関する基礎的な知識と,操作に関する基本的な技術を身に付けている生徒
A自ら課題を設定し,適切なソフトウェアを用いて主体的に情報を収集,判断,処理し,マルチメディア用ソフトウェアを活用して表現や発信ができる生徒
Bマルチメディアの特徴を利用して表現した学習活動を振り返り,その結果を次の学習や生活をよりよくするために進んで活用できる生徒

(2) 生徒の実態
@小学校の学習歴及び家庭での利用の実態
 小学校や家庭におけるマルチメディア活用及び中学校入学後の学習の状況を探るため,研究対象校生徒の出身小学校(3校)にアンケートを実施した結果,コンピュータの設置状況やコンピュータを使った授業を展開している教科や学年に大きな違いがあることが明らかとなった。 また,家庭におけるコンピュータ活用の実態に関するアンケートを実施した結果,7割を超える家庭にコンピュータがあり,そのうち半数は週1回以上の割合でインターネットを利用しているなどの実態が明らかとなった。このことから,小学校や家庭におけるデジタルデバイド(パソコンやインターネットなどの情報技術を使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる待遇や貧富,機会の格差)の問題は深刻であると考える。
A中学校の各教科および「情報とコンピュータT」に関する実態
 次に,「情報とコンピュータT」学習後の生徒を対象にアンケートを実施した結果,出身小学校による学習意欲や情報活用能力の格差は認められなかった。これは「情報とコンピュータT」の学習を通して,小学校時におけるデジタルデバイドの問題が緩和されている実態を示したものと考れられる。

B「情報とコンピュータU」に関する実態



         図1 「情報とコンピュータU」学習の実態
 Webページの制作を題材とした学習の課題を探るため,郡内抽出校を対象に「情報とコンピュータU」の学習の前後に「情報活用の実践力尺度テスト((坂元1999*1)」を実施し,また,学習のまとまりごとに「技術科における学習意欲尺度(森山1997*2一部改)」を実施した。
 その結果,「情報活用の実践力」を構成する各要因と,学習意欲に関しては「学習の成就感・達成感(自分の力でやりとげ工夫した)」因子及び「コンピュータの操作と活動への
期待(コンピュータを使って学習を進めることへの期待)」因子での低下が認められた(図1)。
 また,学習の積み重ねによって情報活用の実践力を支える基礎・基本的な能力は向上しているにもかかわらず,生徒自身にそのことが実感されておらず,学習を重ねるに伴って「自分の情報活用の実践力は思っていたよりも低いのではないか」とネガティブな自己評価観を持つ生徒が増えていることが明らかとなった。
(3) 仮説
 生徒の実態を踏まえ,めざす生徒像に迫るため,以下のように3つの仮説を設定し,研究を進めることとした。

仮 説
1 マルチメディアの活用を通して身につけさせたい基礎的・基本的な知識と技術を明確にし,段階的に学習内容を高める指導過程を工夫すれば,確かな知識と技術が身につくであろう。
2 生徒の実態を踏まえ,段階的に課題のレベルを高めていくような問題解決的な学習を工夫すれば,学習意欲が高まり,自ら課題を解決していく力を育むことができるであろう。
3 自己評価活動と,教師による形成的な評価 を積み重ねることにより,自己評価能力が高まり主体的な学習活動が行われるであろう。

3 研究内容
(1)基礎・基本の洗い出し表の作成
 マルチメディアの活用により習得させたい基礎・基本の定着を図るため,国立教育施策研究所のまとめた「評価の規準」をもとに,基礎・基本の洗い出し表を作成した(表1)。
表1 基礎・基本の洗い出し表の例
*1坂元 昴:情報活用の実践力尺度の作成と信頼性および妥当性の検討(1)-尺度の作成-(日本心理学会
      第63回大会発表論文集1018,1999)
*2森山 潤:技術科教育における生徒の学習意欲の分析に基づく授業改善の試み(京都教育大学教育実 
      践研究年報第13号,pp153~166,1997)

(2)問題解決能力の育成を図るための段階的課題設定の工夫
 表1でまとめた内容を,15授業時間で体系的に指導できるよう,題材別年間指導計画をまとめた。また,自ら課題を解決していく力を育むために,課題解決的な学習を以下のように3つの段階で徐々に高めることを考え,各段階で身につけさせたい問題解決的な能力を「学び方の内容」として題材別年間指導計画に加えた。

課題設定のレベル
第1段階(課題1)
 教師から示された課題に対して,指示された方法に従って課題解決を図る段階
第2段階(課題2)
 教師から示された複数の課題の中から自ら課題を選択し,その解決方法についても複数の解決方法の中から自ら選択して課題解決を図 る段階
第3段階(課題3)
 日常の問題の中から課題を発見し,解決に向けた題材を自ら決定して課題解決を図る段階

基礎・基本となる事項の学習を体系的に積み重ね,課題設定を段階的に高めていく学習を成立させるため,ページごとに異なるテーマで構成される複数ページから成るWebページの制作を主題材とした。複数ページからなるWebページの制作は,ページごとに異なる課題を設定することで「計画→実践→評価」のサイクルもページごとに位
置づけることができる。繰り返される課題解決的な学習により学び方が身に付きさらに段階的に高められる課題設定によって,他の課題へも生かせる問題解決の能力を身に付けることができると考えた(図2)。
 一般に,課題のレベルが上がれば制作上必要な基礎・基本的事項も高度となり,習得しなければならない知識・技術も多くなるため生徒主体の学習活動となりにくくなる。
 また,情報を扱う上では,インターネットや書籍など既存の情報を収集してまとめるレベルと,自ら情報を創り出すレベルとは異なると考えた。そこで第3段階を前後半に分け,後半では新たに習得すべき知識・技術を極力減らし,生徒自身が主体となってページを創造するレベルとして設定して,表2のようにLev1〜Lev4の4段階に分けて課題をまとめた。これをもとに題材別年間指導計画および15授業時数分の略案を作成した。

(3)制作の意義が実感できる主題材の検討
 研究校では総合的な学習の時間において「職業体験学習」を実施し,1年時では職業調べや職場見学などを積み重ね,2年時では体験学習先となる職場を生徒自身が探し出し,職場へ直接依頼に行く形態を採用している。前年度の生徒がどのような職場を訪れどのような体験をし,どのような感想を持ったのか,などの情報は次年度の生徒にとって切実な内容として求められている。従って,これらの情報を盛り込んだWebページは発信者側となる生徒にもその意義が広く理解されやすく,制作活動にも高い意欲を持って臨むことが期待されることから,「職場体験学習」をテーマとしたWebページの制作を主題材とした。

図2 段階ごとの課題設定の概念図

 なお,完成したWebページはその目的からも校内での活用に限定し,インターネット上には公開しないこととした。また,Webページを制作するソフトウェアとしては,操作手順の指導が最小限ですむことや,完成した作品の見栄えがする点,調べ学習を通して得たデータを定められたスペースに効率よくまとめる技術についても工夫させることができる点などから,プレゼンテーションソフトを活用することとした。
(4)自ら課題を解決する学習を補助するワークブックの工夫
 実態調査では,生徒が「学習を自分の力でやりとげた,自分で工夫した」ことを実感できない姿が課題として示された。そこで,生徒が自ら課題を解決する学習を成立させるために,本題材専用のワークブックを作成した。ワークブックは,操作などに関する手順をまとめた「テキスト部」と,生徒が自ら考え工夫する場面や自己評価の場面などで生徒自身が書き込んでいく「ワークシート部」からなり,レベルごとに交互に綴じ込まれていく形態とした。
(5)個に応じた指導の工夫
 実態調査では,学習が進むに従ってコンピュータを使って学習を進めることへの期待観が低下していくことが示された。複数ページから構成されるWebページのどのページも同じような学習内容であったならば,学習への期待感は低下する。段階的な課題のレベルを設定し,学習を積み重ねることによって,以前にはできなかったような高度な内容ができるようになったことを生徒に実感させることは,「もっと難しい内容にも挑戦したい」という意欲化につながるであろう。
 さらに自作ワークブックでは,全ての生徒に理解させたい内容をまとめた「基礎編」と,より高度な学習に挑戦する生徒に配布するための「発展編」に分けて編纂し,より高い技術と意欲を持った生徒に対応できるよう配慮した。
 また,評価規準で『おおむね満足』に達しない生徒への対応を考慮し,補充的な指導と支援を準備するなど,個に応じた指導を計画的に実施することとした。
(6)適正な自己評価観の育成
 適正な自己評価観の向上には,学習のねらいを生徒に理解させ,ねらいに対する自己評価を繰り返すことで自己評価の習慣化を図ることや生徒の自己評価に教師からの助言や友人からのアドバイスを加える活動を加えることも有効であろう。ワークシートにこれらの項目を設け,適正な自己評価観を育成することを考えた。
4 研究の成果と今後の課題
(1)成果
・全ての生徒がWebページを完成させたことより,基礎・基本となる知識と技術が身についた。
・段階的に課題のレベルを高めたことで,生徒が主体的に情報を集め,考え,ページをまとめることができた。これにより問題解決能力を高めることができた。
・調査の結果,情報活用の実践力については全ての因子で向上が認められ,学習意欲尺度に関しても中盤以降の上昇が認められ,「知的好奇心」因子では伸びが確認できた(図3)。



              図3 平成15年度の結果

(2)課題
・学習の段階ごとにその定着をはかる具体的な評価規準に曖昧さが残っている。
・学習課題を生徒のものとし自己評価を習慣化するためのワークシートのさらなる改善が必要であり,今後の研究につなげたい。
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