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自ら課題を求め、主体的に解決していく力を育む技術・家庭科教育
−男女共同参画社会の中で生きる自分のための保育学習(家族と家庭生活)−

T.はじめに
平成14年度より実施される新課程では、技術・家庭科分野の統合、再編成がなされ、 現課程とはかなり形式が様変わりし、家庭分野では、A.生活の自立と衣食住、B.家族と家庭生活となった。 特に注目すべき点として、家族と家庭生活の中の「 幼児の発達と家族」や、「家庭と家族関係」などの内容を全員が履修することになり、 選択項目では幼児の生活に役立つものを製作したり、 実際に幼児とふれあう経験をするといった内容が入ったことがあげられる。 また、教育課程審議会の答申では、 技術・家庭科の改善の基本方針に「男女共同参画社会の推進、 少子高齢化などへの対応を考慮し、家庭の在り方や、 家族の人間関係、 子育ての意義などの内容を一層充実する。」と明記されている。そもそも「子どもが育つ環境としての家族・家庭の役割」が 中学校の家庭分野の学習内容として取り上げられたことは、 今日の家庭科に対する社会的な関心と期待が、 子供の発達と家庭の役割に、 いかに強く向けられているかを示しているといっても過言ではないと考える。 期待に応えるべく努力と研鑽を積み、教科としての家庭科を充実、向上させていきたい。

U.研究のねらい

とある親子とのふれあいを通して、幼児期の自分と親とのかかわりを思い出し、今の自分と親とのかかわりについて考えることができ、自分の成長や生活は、家族や、それに代わる人々によって支えられてきたことに気づく。
 

中学生くらいになると、家族より友人との交際やつながりを優先することが多く、ともすれば家庭は憩いの場というより、食事、就寝、学習するための空間で、「親は経済的援助をしてくれる人」というように味気ない雰囲気の家族関係も見受けられる。彼らは以前からそうであったわけではなく、幼い頃は母親に甘え、父親と遊ぶことをこの上ない幸せと感じていたはずである。家族のつながりを二の次にするようになったのは、家族関係が希薄になったというより、子供が成長するにつれて、行動範囲が広まり、加えて、塾や習い事など時間の制約も多く、家族でゆっくりと過ごす時間がとれなくなったためと考える。それと反比例するかのように、友人と会う時間は増え(塾や習い事も同じであったりとか)共通の話題も多く、自然と友人同士のつながりを優先していくようになっていったと考えられる。中学生に保育を指導するということは、幼児の特徴を理解したり、幼児とふれあって、彼らとうまくコミュニケーションをとるのが最終目的ととらえず、自分と自分を育てた親とのつながりをふり返る場としていきたいと考えている。つまり、幼児や幼児の親とのふれあいを通して、幼児期の自分と親とのかかわりを思いだし、ひいては、今の自分と親とのかかわりについて考えることができるようになってほしい。自分の成長や生活は、家族やそれに代わる人々に支えられてきたことに気づくことができ、やがて自分が親になったときは、いかに子供とかかわるかを具体的ではないにせよ、イメージしてもらいたいと願って、ねらいとした。

V.研究の内容

1.生徒の意識調査
生徒が社会人として生活し、将来結婚すると仮定して以下のアンケート調査を実施した。主旨として、男女共同参画社会の中で生活していく彼らが現在、家事や子育てについてどのようにとらえているか把握し、ジェンダーの観念が強いのであればジェンダーフリーの視点に立って生活していくよう支援、援助していくことを目的としている。

〈結果〉3学年生徒 男子85名 女子75名
・結婚後の仕事について.
ア.夫のみ仕事、妻は専業主婦
イ.夫婦共働き(子供が生まれるまで)
ウ.夫婦共働き(子供が生まれても)
エ.その他
男子
41%
41%
6%
12%
女子
20%
60%
20%
0%

・夫婦共働きの家事分担について
食事作り
ア.朝食は妻が作り、夕食は、一緒に作る
イ.朝食は夫が作り、夕食は、一緒に作る
ウ.朝〜夕食すべて妻が作る。
エ.朝〜夕食すべて夫が作る。
オ.その他
44%
0%
31%
0%
25%
60%
0%
20%
13%
7%

洗濯
ア.すべて妻が行う。
イ.すべて夫が行う。
ウ.その日の状況で夫婦どちらかが行う。
エ.夫婦一緒に行う。
オ.その他
31%
7%
50%
6%
6%
29%
0%
57%
14%
0%

掃除
ア.すべて妻が行う。
イ.すべて夫が行う。
ウ.その日の状況で夫婦どちらか
が行う。
エ.夫婦一緒に行う。
オ.その他
31%
0%
57%

6%
6%
14%
0%
57%

29%
0%

・夫婦共働きの育児について
子供が0〜1歳(乳児期)まで
ア.父母で育児
イ.母中心で育児
ウ.父中心で育児
エ.その他
81%
13%
0%
6%
64%
36%
0%
0%

1〜3歳まで(基本的生活習慣や心身の発達の著しい時期)
ア.父母で育児
イ.母中心で育児
ウ.父中心で育児
エ.その他
88%
6%
0%
6%
86%
14%
0%
0%

4〜6歳まで(ことばを理解し、社会的生活習慣を習得していく時期)
ア.父母で育児
イ.母中心で育児
ウ.父中心で育児
エ.その他
71%
24%
0%
5%
93%
7%
0%
0%

〈考察〉
結婚しても働くのは当然という意識は男女ともあるが、子供が生まれた後は、主に女性が働くのをやめて、家にいることを希望している生徒が多い。男子は、自分のみが働いて、女性は家にいてほしい願望がある。
家事について、傾向として、男女一緒に行うのが当然という意識はあるものの、食事作りについて、男子生徒は女性が主導権を握ることを希望しているこれは、食事を作る経験が自分の生育歴で乏しいことと、これから習得するにはかなりの努力が必要であり、できる方(妻)に依頼する傾向が強いと考えられる。 それに比べると、洗濯や掃除、特に掃除では、掃除機をかけ、化学雑巾で拭くなど、簡単で、失敗が少ないため、やりやすいと考える。 洗濯も洗濯機が行うので、簡単ではあるが、妻側(女子生徒)としては自分の衣類は自分で洗いたいという希望もあるようだ。
結婚後の仕事、家事の分担を通して考えると、男は仕事、女は家事全般という意識は、確実に薄れていると判断できる。また、男子生徒の4割が専業主婦を望んでいるのは、家事をやらなくてよいからという発想が強いからで、ジェンダーの意識からではないと考える。女子生徒も家庭は女が守るというより、夫の収入で生活していけるなら、無理して働かなくてもよいという考えがあるようで、安易な気持ちを持っている生徒もいるようだ。全般的には働くのが当たり前という考えが強いが、子育ての問題に直面したとき、女子生徒が、仕事を辞めて、家庭にはいることを選ぶのは、今の社会では、子育てを支援するための基盤が、まだまだ整っていないことも一因と考えられる。
子育てについて、両親で教育に携わるという意識はしっかりと定着している。特に注目すべき点は、男子生徒の育児に対する関心が強いことで、自分の子供にとても愛情を注ぎ、見守っていきたいという気持ちが伝わってくる。むしろ、女子生徒の方が母親が中心になって育てたい、育児は、母親中心という自己主張が感じられ、夫婦で子供を育てていくという気持ちが男子生徒に比べ、育っていないことが興味深い。
中学生の意識が、ジェンダーにとらわれていないという実感が伝わる結果であったが、努力とか苦労をしない生活を好む雰囲気も伝わった。なにより、中学生を取り巻く我々大人や社会の意識がまだまだ観念的でジェンダーフリーの視点に立っていない場合が多いように自分自身の言動も含めて感じた。調査結果をこれからの指導に役立てたい。

2.指導計画         総時数24時間
(1)幼児の特徴を知ろう(4時間)
・身体と運動機能の発達 ・こころの発達
(2)CDソフトシュミレーションで子育て体験!(2時間)
(3)パズル製作(8時間)
(4)街中で子どもと遊ぼう(4時間)
・レポート製作… 地域にある大手スーパーや遊園地、公園などで、製作したパズルで子どもと遊ぶ。その際、主旨説明とお願いをしっかりいえるよう、社会常識とマナーをわきまえた対応で幼児とふれあうよう指導しておく。また、親が遊んでいる自分の子をどのように見ているか、見守っているかも失礼のない程度に観察する。差し支えのない範囲で、子育ての話や間食についての話を聞く。

(5)発表会(2時間)
・発表会の中で、今の自分たちが、授業の中でできることは何かを見つけ、問題提起をさせていく。ここでは、幼児の間食について考えることになった。

(6)おやつ対決(2時間)
   調理実習(2時間)

3.実践例
パズルの製作では、まず、対象年齢と目的を決めてから、製作させた。 例えば、4〜5歳なら自分の好みのキャラクターはとてもよくわかるので、そのことを活用して、色や形を理解させたり、天気や乗り物などに発展させたりなど、生徒が、彼らなりに考え、工夫してパズルを製作した。幼児とふれあう経験の少ない彼らが、発達段階に合わせたパズルを製作するのは、難しかったようだが、一生懸命に取り組むことができた。
遊ぶ前に簡単なシナリオを書き、流れの確認をして、幼児と遊ぶようにさせた。実際に遊ぶと、なかなかシナリオのようにいかないと感想をもらしていた。親ごさんが、とても協力的で、生徒が助けられる場面が多かった。近所の家に訪問する生徒もいて、日常は、挨拶程度の間柄が、パズルを通して、よく遊んでくれるお兄ちゃん、お姉ちゃんとなった。親ごさんが、自分の子を見る目がやさしいことを通して自分もそのように見つめられて育ったことを実感した生徒が多かった。

W.研究のまとめと今後の課題

1.研究のまとめ
中学生が、地域の中で、面識のない親子連れに突然話しかけ、理解を得た上で、パズルで遊んでもらう試みは、かなり唐突で、場合によっては問題発生の可能性が高いかもしれない。しかし、地域住人の一員として、与えられた場ではなく、自分で開拓した場で、節度を持って幼児やその親とコミュニケーションをはかっていくことは、これからを生きる力につながると判断している。

2.今後の課題
幼児とふれあう時間に個人差がある。保育所訪問のように多くの幼児と比較的長い間ふれあう体験も意義あることなので、次年度の検討事項としたい。